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アスナ

「ヨリミチ to ジャーニー」

 「journey」=「旅」といえば、たいていの場合は、何日間か家を離れてよその土地に行って観光したりすることを言うわけですが、「journey」という言葉のもともとの意味は、「jour」という「日々」とか「一日の行程」といった意味が原義らしいのです。そこから考えれば、たった一日だけの「旅」であっても、じゅうぶんに「journey」と言えるでしょう。

高校2年生のある日、学校を休んでひとりで海へ行った時のこと。自転車でいつもの通い慣れた道を途中で外れ、海へ行こうと反対方向へ。家から海まではそう遠くはなかったので、知っている最短距離の道を行けば自転車なら20分ほどで着いてしまいます。せっかく学校を休んで海へ行くというのに、そんなに早く着いてしまっては素っ気ないですし、日々の学校生活の倦怠感を晴らしたい年頃ですから、とりあえず何かしら知らない場所を経由して海へ向かおうとしました。自分で勝手にルールを決めて、知っている道は絶対に通らないようにして、大きく遠回りしながら海へ。

知らない道とはいえ、近所です。なのに、全く知らない道とその景色はとても新鮮に感じます。好きな音楽を聴きながらただひたすらにペダルを漕ぐのはとても気持ちが良く、どんどん適当に知らない道を選択して進んで行くと、ほんとうに道に迷ってしまいました。しかし、最終的にまったく知らない海岸へ着いたとしても、なんとなく「海」へ行ければ良いというあやふやな目的地なので、道に迷ったとしても、まったく気になりませんでした。通りがかった神社の境内でコーラを飲みつつ一旦休憩。そよ風にあたりながら、ふとあたりの風景を見回していると、どこか遠くの知らない土地へ漂ってきたかのようにちょっと感傷的な気分になったり。その後、知らない町をいくつも通り、ある高速道路の高架下をくぐって小さな坂を登りきって海岸に出た瞬間、初めて海を見たかのような喜びに心踊る自分がいることに気が付いて驚きました。

思うに、普段の生活とは異なった「日々の行程(jour)」をおくることが「旅」というものの醍醐味であるすれば、地理的な距離などとは関係なく、いつもとは状況が違っていたり、気持ちや視点を変えるだけで、こんな「よりみち」からでも自分にとっての「ジャーニー」はどこからでも体験することが出来るのかもしれません。

それからというもの、学校を休んでは自転車でいろんな場所へ出かけるようになり、近場のところへ行くにも全く知らない道を経由したりと、ブラブラとよりみちの旅を楽しむようになりました。学校へは休み癖がついてしまったけれど・・・。

ところで、「よりみち」とは「目的の場所へ行く途中で、他の所へ立ち寄ること」を言うわけですが、「よりみち」そのものが本来の目的になった場合は、「よりみち」ではなくなるんでしょうか?






□ ASUNA

『よりみち vol.1 出発』誌上より転載。(2005.12.01)