- asuna

aotoao2005-02-08

灰田勝彦・晴彦とモアナ・グリー・クラブ

"The History of Moana Glee Club 1936 - 1950"

かのVictorから山内雄喜の監修による、日本のハワイアン音楽のルーツを辿るCDが近年いくつか復刻されてきたが、それらのほとんどに名をつらねているバンドがこの灰田兄弟によるモアナ・グリー・クラブである。日本におけるハワイアン音楽は1920年代にアーネスト・カアイやデイヴィッド・ポキパラによって広く紹介されることとなったが、それらを根付かせ、当時のハワイアン・ブームの火付け役となったのは、ハワイから来日しその後定住することとなった灰田兄弟の功績によるものだという。グループは1929年から始まっており、彼らの最初期の録音は1933年の徳山連と藤山一郎のバックバンドとしてだったが、正式にデビューしたのはその3年後の1936年に「ハワイのセレナーデ」をVictorからSPレコードとして発売してからとなる。それがこのCDの冒頭の曲となっており、年代を追いながら、モアナ・グリー・クラブとしては1941年までの録音が収録されている。なんといっても弟・勝彦の独特なファルセット・ボイスが印象的だが、それ以上に兄・晴彦によるスティール・ギターの演奏が素晴らしい。ほぼ全曲で特徴的に聴かれるスティール・ギター・ソロは、そのテクニックと音色が、いま聴くとほんとうにユニークなものに感じてしまう。特に7曲目の「常夏の楽園」でのソロ演奏はこのCDの中でも出色の出来だ。彼らの演奏のほとんどは伝統的なハワイアンの曲ばかりなのだが、その編曲やソロ演奏部分において兄・晴彦の才能が際立っている。また、戦前の録音物のほとんどに言えることだが、その音質の悪さすらもこれらの音源の魅力の一つだろう。こういった音源を現在求めるリスナーのほとんどが、SP盤の回転する雑音すらも混じるこの籠りきった劣悪な音の悪さの魅力に惹かれているに違い無いのではないか。現代のレコーディングテクノロジーの発達により、クリアな音質に慣れきった私達には、それらが懐古的であるというよりも、一つの新しい特徴的なものとして発見し、嗜好する者も多いだろう。このCDにおいても、後半まで聴き進めていくと、ずっと背後(曲によっては前面に!)で鳴っているSP盤の回転するガサゴソとした音や籠った音質が気になって来る。だがそれはとても心地よい音楽の一部として響くのだ。現在ではこういった魅力に惹かれ、自らの音楽にそのような音質を意識的に選択する者も少なくない。また、このCDは史的に見ても当時のグループの詳細な資料や貴重な写真等もブックレットに数多く載っていたりと(それがまたイイ雰囲気!)、とても充実した内容となっている。同じシリーズとして発売されている『ALOHA OE Hawaiian Music in Japan 1928 - 1939』も日本のハワイアン音楽の発祥を知るうえで貴重な一枚。






□ ASUNA

(2005.02.08)