- jun takahashi

aotoao2005-04-10

アスナ

 彼との出会いは新宿にあるレコード店『ロスアプソン』に置かれていたカセット・テープ。シンプルな厚紙のカラー・インデックスが添えられたのみのそのテープを安価というのも手伝って即購入。そこに鳴り響き拡がる音像からは、簡素なアートワークに共振する電子音が優しく伝わってきた。一聴して、遥か彼方から聴こえてくるような美しいドローンに驚かされる、慎ましやかさも湛えた音楽だったのだ。それから2年ほどが経過したか。既にアナウンスされていたデビュー・アルバムが、スペインのフィールド/ライフレコーディングを標榜している素敵なレーベル“ラッキーキッチン”から届いた。長尺なドローンや牧歌的な戯れも愛らしい、そして先鋭性も顕著なこの作品は、色々な要素を並列させてみせる1枚。オルガンの響きというものは、幼少の頃を想起させるだけではなく、とかく魅力的な楽器なんだなあと、改めて、いや、もしかしたら初めて気づかされたかもしれない。彼の作品には、しっかりとコンセプトを立て実践するよりエクスぺリメンタルな『Each Organ』という作品や、対極とも言えるミニマムで愛らしい、彼の作品の多くのアートワークを手掛ける木村彩子とコラボレートしたミニCDもある。後者は木村が手掛けるドローイングにアスナが音を付けるという試みで、家の中にある楽器や非楽器なんかを自由に鳴らし、演奏するという、とてもほのぼのとした、牧歌的なたゆたいがなんとも心地良い作品。音の振れ幅はとにかく大きいのだ。

 また、最近のライヴでは物語に音ををつけるというパフォーマンスを繁栄に行っており、そこに広がる音世界は、コンセプチュアルという小難しい言葉に反するような、緩やかな音像を描き出す。今年予定されているリリース群を幾つかピックアップしておくと、まずは前作同様“ラッキーキッチン”からの新作。更にWrKのm/sとのデュオ作は、アスナの弾くオルガンの音色をm/sが特殊アンプを用いて増幅、演奏というコンセプトの1枚。これはSpekkから出る。テレクムジークという今回取り上げさせて頂いたアーティストのほとんどがこのテレクのイベントに参加しているが、なんとレーベルをスタートさせる模様。ここからはまずピッチシフターズとアスナを同時リリース。更に『円盤』からECDに続く7インチが予定されているとのこと。






□ 高橋潤 (http://d.hatena.ne.jp/zu_hause/)

『KITTEN』(issue 6)誌上より転載。(2005.04.10)